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札幌地方裁判所 昭和43年(ワ)1402号 判決 1968年11月20日

原告 長淵タダ

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 田村誠一

被告 加藤君枝

右訴訟代理人弁護士 小林盛次

主文

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告ら訴訟代理人は、「被告は原告長淵タダが別紙第一目録記載の土地につき札幌法務局昭和三三年五月七日受付第一三、四四七号所有権移転請求権保全の仮登記にもとづく本登記手続をすることを承諾せよ。被告は原告山本喜作が別紙第二目録記載の土地につき、札幌法務局昭和三三年五月七日受付第一三、四四六号所有権移転請求権保全の仮登記にもとづく本登記手続をすることを承諾せよ。被告は原告加藤キヨが別紙第三目録記載の土地につき札幌法務局昭和三三年五月七日受付第一三、四四六号所有権移転請求権保全の仮登記および同法務局昭和三九年三月一七日受付第二八、二八七号四番仮登記移転の仮登記にもとづく本登記手続をすることを承諾せよ。」との判決を求めた。

二、被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

第二、請求の原因

一、訴外芳武マサト(以下訴外マサトという)と被告は、亡芳武旭の共同相続人であったところ、被告がその相続による共有持分権を放棄したことにより、右訴外人が別紙第一ないし第三目録記載の土地(以下本件各土地という)につき単独の相続登記をした。

二、訴外マサトは、昭和四一年一月二〇日札幌地方裁判所より

1、原告長淵タダに対し本件第一の土地につき札幌法務局昭和三三年五月七日受付第一三、四四七号所有権移転請求権保全の仮登記(以下本件第一の土地の仮登記という)にもとづく本登記手続をせよ。

2、原告山本喜作に対し本件第二の土地につき札幌法務局昭和三三年五月七日受付第一三、四四六号所有権移転請求権保全の仮登記(以下本件第二の土地の仮登記という)にもとづき本登記手続をせよ。

との判決を受け、右判決は確定した。

三、訴外マサトは、原告加藤キヨとの間に昭和四二年一二月二六日本件第三の土地につき札幌法務局昭和三三年五月七日受付第一三、四四六号所有権移転請求権保全の仮登記および同法務局昭和三九年三月一七日受付第二八、二八七号四番仮登記移転の付記登記(以下第三の土地の仮登記という)にもとづく本登記手続をすることの和解をした。

四、ところが、本件各土地については、原告らの右各仮登記の後である昭和三九年八月一一日に被告より訴外マサトに対し、譲渡等禁止の札幌地方裁判所の仮処分決定がなされ、仮処分の登記がある。

五、よって被告は不動産登記法第一〇五条により原告らの仮登記にもとづく本登記手続を承諾すべき義務があるので、その承諾を求める。

第三、請求の原因に対する答弁

一、請求原因一のうち被告と訴外芳武マサトが亡芳武旭の共同相続人であることは認めるが、その余は否認する。本件各土地については被告とマサトとが共同相続をし両名の共有であったのを、訴外マサトが擅に単独相続を原因として登記をしたものである。

よって被告の持分に関し、訴外マサトは無権利者であるから、原告らは、被告の真正な権利に対抗することができない。

二、請求原因二、三は不知。四は認める。

第四、証拠≪省略≫

理由

一、訴外芳武マサト(以下訴外マサトという)と被告とが亡芳武旭の共同相続人であったこと、本件各土地が亡芳武旭の所有であったこと、本件各土地につき訴外マサトのため単独相続の登記がなされ、現に同人の所有名義となっていること、本件各土地につき被告を債権者とする譲渡等禁止の仮処分決定にもとづく仮処分の登記(以下本件仮処分の登記という)があることについては当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫によれば、右本件仮処分の登記に先立って本件各土地には、それぞれ原告らを権利者とする原告ら主張の所有権移転請求権保全仮登記(以下、本件仮登記という。尤も弁論の全趣旨によれば原告加藤キヨは山本喜作の仮登記権利の転得者である)がなされていることが認められる。されば被告は原告らが本件仮登記に基づく本登記手続を申請するにつき不動産登記法第一〇五条第一項に定められた登記上利害の関係を有する第三者(同第一四六条)にあたるものというべきである。

しかるに被告は、本件各土地は訴外マサトとともに共同相続したものであって、前記訴外マサトの単独相続の登記は被告の持分に関しては実体関係を反映しない無効なものであり、訴外マサトは被告の持分に関し無権利者であって、これから設定を受けた本件仮登記は被告に対抗し得ないと主張する。

本件各土地がもと訴外芳武旭の所有であって、訴外マサトと被告がその共同相続人の地位にあることは前記のとおり当事者間に争いがない。そうであれば、本件各土地については、被告と訴外マサトとが共同で相続し、両名の共有に帰しているものと認められる。

もっとも、訴外マサトは前記のとおり単独相続の登記を経ており、これにつき原告は、被告が右相続による共有持分権を放棄したものであると主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、≪証拠省略≫によるとかえってその事実の認められないことが窺われる。そうだとすると、前記訴外マサトの単独相続の登記は同人が擅にしたものと推認せざるを得ない。

そうして、共同相続をした土地につき共同相続人のひとりが擅に単独の登記をしたとしてもその者の持分以外については無権利者であって、その登記は、他の者の持分については実質関係をともなわず、他の共同相続人は右単独の登記をした者に対し更正登記請求権を有する反面、この単独登記をした者から所有権を譲受けた者も、登記には公信力が認められないから右単独相続名義人の持分以外の権利を取得することはできず、他の共同相続人は登記なくして自己の権利を第三者に対抗し得べきものである。これを本件についていえば、原告らが本件土地につき訴外マサトの処分によって本件仮登記によって保全される権利を取得(原告加藤キヨについては転得関係にあるが、その理くつは同じ)したとしても、それは訴外マサトの持分の限度においてのみ有効であって、被告の持分についてまでこれを取得することはできず本件仮登記をもって被告に対抗することはできないし、他方被告は訴外マサトに対し持分二分の一づつの更正登記請求権を有するものというべきである。

三、そうであれば右更正登記請求権を本案とする本件仮処分の登記の登記権利者である被告には右更正登記がなされるまでは、原告らに対しても本件仮登記に基づく本登記手続の承諾に応ずる義務はないと云うべきである。

よって、被告の抗弁は理由があるから、原告らの本訴請求はいずれもこれを認容することはできないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、同九三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎)

<以下省略>

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